一般社団法人埼玉県建設業協会

経済一口メモ 2014年3・4月号

建設業の人手不足が本格化

 アベノミクス景気で、建設業界を取り巻く需要環境が改善されてきたが、一方で頭を悩ます問題が本格化してきた。建設現場での人手不足で、全国的な現象ではなく埼玉県内でも労働者不足は深刻な状態になっているようだ。埼玉労働局の職業分類別に集計した求人・求職バランスシートによると、昨年12月段階で「建設・採掘」の有効求人数が3,877人だったのに対し、有効求職数は1,080人となっている。これにより、有効求人倍率は3.59倍と高く、約4人の募集に対して1人しか確保できない勘定となる。
 建設を含めた事務的職業や販売など、職種全体の有効求人倍率が0.64倍なのに対して異様な高さとも言える状況で、「建設・採掘」の中でも、「建設躯体工事の職業」では有効求人倍率が6.93倍、「建設の職業」が4.77倍、「土木の職業」は3.29倍と、軒並み全職種の倍率を大幅に上回っている状況だ。年が明けて3月となった現在でも、恐らく建設業の人手不足は収まっていないことだろう。
 最近では、建設業での人手不足を伝える新聞記事が目立つようになり、その深刻さがうかがえる。ある新聞記事では、「建設現場で必要な職人の数に対し、足りない人数の割合が2013年平均で、比較可能な1993年以降で最も高くなった」との国土交通省の調査結果を伝えている。中でも10年でようやく一人前になる、とされる型枠工やとび工の不足が目立ち、70歳以上の職人が働いているケースも珍しくはないと書かれていた。
 振り返ると、建設関連職種の有効求人倍率が高くなったのは東日本大震災からの復興需要に始まり、景気回復のための公共工事の増加などで加速した。さらに、2020年の東京オリンピックを見定めた各種の建設需要も、現在の人手不足を招いていると思われる。しかし、求人賃金の引上げが他の業種に比べて、まだ遅れていることも見逃せないのではないだろうか。2013年度から公共工事設計労務単価が全国平均で15.1%増加したが、まだまだ引上げ効果が出ていないようで、求人倍率を高めている要因ともなっているのかもしれない。
 加えて、厚労省の2012年賃金構造基本統計調査では、製造関連職種と建設関連職種を比べると、「年間賞与その他特別給与額」では大きな差が生じている。そのため、年間給与額が低いことで、建設関連職種への求職者減少の一因ともなっているものと思われる。
 埼玉県内の建設業者にとっては、労務賃の大幅引上げで、現在の人手不足を回避したいところだが、巷では職能的な型枠工やとび工の日当が4万円とか、5万円とかとなると、少しためらうのではないだろうか。もっとも、数多の工事を受注し人手不足が深刻な建設業者なら、割高な日当でも我慢のしどころで、それよりも業界が活況なことを喜ぶべきかもしれない。(ぶぎん地域経済研究所)


県内企業の過半は賃上げを予定

 大胆な金融緩和や大型補正予算を伴う経済対策から景気は回復している。景気回復の動きが持続しデフレ脱却を見通す上で、賃上げの動向が注目されている。働く者にとっては、4月の消費増税による所得の目減り分を賃上げで取り戻したいところだ。そこで、当研究所は、春季賃上げ見通しのアンケート調査を2月に実施した。
 埼玉県内企業573社へアンケートしたところ、245社から回答(回答率42.8%)をいただいた。賃上げを予定している企業割合は、前年度調査に比べ7.3㌽増の53.5%と過半を占めた。アベノミクス効果により景気が回復していることから、前年度よりも増加したものと見られる。その一方で、賃上げを実施するかどうか「未定」と回答した企業は31.8%と3割を超している。自社の業績や経営環境のほか、春闘の動向等を見極めた上で慎重に賃上げに取り組もうとする企業も多いものとみられる。
 賃上げ実施を予定する企業に、定昇とベースアップの取組状況を聞いたところ、定昇のみ実施してベースアップは実施しない企業の割合が38.3%と最も多く、定昇とベースアップの両方を実施すると回答した企業は、11.9%にとどまっている。政府は産業界に賃上げを要請、経団連も6年ぶりにベアを容認しているが、春季賃上げ見通しの企業でもこの両方を実施する企業が増えるものと予想したが、結果は定昇のみの賃上げ企業が多数を占めている。埼玉県内企業ではまだ様子見の企業が多いようだ。
 1人当たり平均賃上げ予定額と賃上げ予定率については、全体では金額で4,995円、率で1.90%とともに前年度の4,282円、1.69%より713円、0.21㌽と若干増えている。業種別では、製造業が4,785円、1.94%、非製造業が5,326円、1.84%となっている。
 それでは埼玉県内の建設業についてはどうであろうか。春季賃上げ見通しのアンケート調査によると、賃上げを予定している企業割合は、全産業を9.6㌽上回る63.1%と6割を占めている。定昇のみ実施してベースアップは実施しない企業の割合は36.8%、その両方を実施すると回答した企業は全産業を14.4㌽上回る26.3%となっている。1人当たり平均賃上げ予定額と賃上げ予定率については、金額で5,413円、率で1.72%とともに前年度の4,833円、1.69%より580円、0.03㌽と若干増えている。建設業は全産業に比べると、率で0.18㌽下回っているが、金額では418円上回っている。
 建設業では賃上げについて全産業に比べ積極的な姿勢が見受けられる。資材価格の上昇のため、アベノミクスによる経済対策による公共投資の拡大などで仕事が増えている程には利益が伸びていないものの、顕在化してきた人材不足に対処するために、賃上げが必要になってきているとみられる。
(ぶぎん地域経済研究所)

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