一般社団法人埼玉県建設業協会

経済一口メモ 2013年6月号

過去20年にみる県内の住宅市場

 このところの円安、株高で国内経済が活性化しつつあるようで、百貨店などでは高額商品が売れ出すなど、個人消費も改善の兆しを見せ始めた。住宅市場も来年春からの消費税増税を前に、一部の地域では新設住宅の着工が回復していると言う。埼玉県内ではどうかというと、今年に入って1月から3月までの新設住宅着工戸数は5,000戸前後で推移し、ここ数年の着工ペースを続けている。そこで、この20年間の着工戸数を振り返りながら、今後の県内住宅市場を考察してみた。
 2012年を起点に過去20年の県内新設住宅着工戸数をみると、92年から93年にかけては、バブル期の1987年に記録した12万5,264戸に及ばないものの、10万戸台は維持していた。94年以降は、それまで全体の着工戸数の半分近くを占めていた貸家の着工戸数が大幅に減少したことで、全体の戸数も低下し、さらに96年を境に持家も減少に転じると、全体の着工戸数は98年に6万3,171戸までに落ち込んでいる。その後2000年代に入り、02年からの景気回復ともに増加基調をたどり、06年には7万8,933戸まで回復した。持家が概ね横ばいで推移し、貸家が増加してマンションや戸建ても、低金利と住宅ローン減税の政策効果などがあって、増加したことが背景にある。
 一度は7万戸台の後半にまで持ち直した県内の新設住宅着工戸数だが、構造計算書偽造事件を受けて、建築基準法が改正された07年には、また着工戸数が減少。審査基準の厳格化で、建築確認申請や着工に遅れが出たため、全体の着工戸数は6万4,667戸へと激減している。その後も、リーマン・ショックの世界同時不況を受けて、不動産関連業界を取り巻く金融環境の悪化などから、09年は5万4,198戸へと、再び水準を落とした。
 5万戸台の着工ベースは現在にも至っており、97年の消費税5%引き上げによる反動で落ち込んだ98年や、建築基準法の改正施行で大幅に減少した07年の水準にも及ばないでいる。ちなみに1992年当時、県内の新設住宅着工戸数は年間10万822戸と、47都道府県の中でも東京都と神奈川県に次いで3番目に多い着工戸数を誇っていた。しかし、20年後の2012年には年間5万9,605戸に落ち込み、順位も東京都、神奈川県、大阪府に次ぐ4位に後退している。
 まさに「失われた20年」を象徴するかのように、県内の住宅市場は大きく縮小したが、今後はどうか。短期的には来年春の消費税引き上げ前の駆け込み需要、低金利下と住宅ローン減税の延長・拡充で、住宅購入や建て替えを決断する環境が整いつつある。さらに、既存住宅の3分の1が1981年制定の新耐震基準以前に建築されたものであることから、新耐震基準に適合した住宅への建て替え需要が、一定程度見込まれることで、県内住宅市場の持ち直しが期待できるだろう。
 住宅投資は、建設業界にとどまらず住宅設備機器や耐久消費財など、関連産業が広範囲に及ぶ。それだけに、住宅市場の回復は、県内経済全体に与える波及効果は大きく、年間10万戸を目指す勢いを早く取り戻してほしいものだ。(ぶぎん地域経済研究所)

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